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ゼロからはじめる小説同人誌 の、猫の巻。

「虎の巻(「芸事などが上達する秘訣を記した書」)」には及ばないけど、でも、ほんとのことだけ記していくよ! 小説同人誌にまつわるそんな心意気を、もりもりこめたブログです。

音や声、香りや手ざわりを紙面に表す

 

こんにちは。

猫宮ゆりです。

 

今日のテーマは、技術というには感覚的なところですが、

五感を表現に落としこむ」という課題について、

お話していきたいと思います。

 

小説の表現や描写には、さまざまな手法・技法・タイプが

存在しますね。

一般に、男性作家は論理的で空間やその場の様子を具体的に

描写し、

女性作家はどちらかといえば内的なもの、感情や実体の

つかめないものを描写するのが得手だとされています。

 

これは個々人のタイプにもよるので断言はできないし、

同じ人物でも違う表現に挑むことや作風を変えることも

ありますね。

 

しかし、どのような描写軸を持つとしても、

扱えるとぐっと作品に臨場感や深みが出るのが、

「五感」の描写です。

 

五感といっても視覚に関しては、主人公の視点で見えて

いる世界を描写していくことが多いわけですから、

ここは大抵の場合、基本的に誰しもがやっているところ。

 

残る聴覚、嗅覚、味覚、触覚は、使うのが抜群にうまい人と、

あまり意図して使えていない人がいます。

 

これらは、感覚のそのものを紙面に織りこむことは、

もちろん実体がないのでできませんね。

「鈴の音がした」と言葉で記したところで、鈴の音が実際に

読み手の耳元で鳴るわけがありません。

「吐きそうに甘いお汁粉だった」と書いたって、読み手が

ああああああ甘い!!とは決してなりはしない。

 

でも、その「なりはしない」ものを、実体もなく架空の描写でしか

ないものを、表すことができるのもまた表現の力です。

 

これを扱えるようになると、読み手を作品世界へ引きこむ力が

抽んでて強くなります。

フィクションでありながら、あたかも

「今ここに実在する世界」のように、

作品を立体化させることができるようになります。

 

 

そのためには、普段から自分の感覚を、注意深く咀嚼すること。

 

「ああ、熱いお味噌汁だと眼鏡がこのくらい曇るのか」

「お茶がどのくらい冷めたか、飲む前からカップを口に

近づけた段階でわかるなあ」

「雪かき何分やると、手が冷たくて痛くなってくるな」

「爪切る時って無意識に息止めちゃってるな」

「息の吐きかたで、冷たくもあったかくもなるな」

「食べものによって、右側で噛んだほうがおいしいものと、

左側で噛んだほうがおいしいものがあるな」

「台所にいても、居間で家族が煙草を吸うと匂いですぐわかる

もんだなあ」

 

など、見過ごしてしまいそうなことでも、ひとつひとつ

実感として自分の内に蓄積していきます。

そしてそれを、客観視したものに置き換えて=作品の

世界観に合うように編集加工して、

作品に使っていくのです。

 

これは確かな実感を纏った言葉になるので、

なんとなくの想像や適当に表現した気になった言い回しとは

一線を画します。

どれだけ編集しても、感じた時の基盤が自分の中にあるので

芯は変化しないし、感覚というのは概念や調べた物事と

違って一生ものなので、何度でもいつでも思い起こすことが

できる強みもあります。

 

「自分の感覚」はひとりひとりみんな違うから必ず

オリジナルですし、磨けばもっともっと鋭くなって

いける便利で唯一無二の武器になります。

 

音や香り、手ざわりや味わいを自分らしく表現できるようになれば、

作品の魅力も深さを増すでしょう。

 

2016年の直木賞を受賞した恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」も、

「音」への類稀な肉薄が結実した作品でした。

 

 

また、触覚でいえば、これは漫画作品ですが桂正和さんの

右に出るものはいないのではないでしょうか。

 

わたしは「電影少女」でヨータが伸子ちゃんの身体に初めて触れる

場面など、初読から20年以上経つ現在でも、

「凄いなあ」と思い出し続けています。

ほんとに触ってる感じが出ているのですよね……。

「人間の手は、パジャマの上からでも肌の部分と下着の部分の

区別がつくなんてすごい」

というヨータの感覚もこれもまた、実感したことがないと

出てこない描写だと思います。

(当時、読みながら自分でやってみて「確かに!!」と

驚愕したおぼえがあります)

 

感覚を噛みしめながら生きることは、

日々を丁寧に生きることでもありますね。

いろいろ試しながら、よりよい表現の道を

模索していきたいものです。

 

 

 

猫宮ゆり

ゼロからはじめる小説同人誌

http://noveldoujin.wixsite.com/novel-doujin